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恋人の私に連絡が来たのはその夜のことだった。血縁者でも、ましてやまだ婚約者でもなかった私への連絡が遅れたことは仕方のないことだったのかもしれない。でも。
「拓真……」
お葬式が済んでも日常が戻って来ていても、悲しみは遠のいてはくれない。昼は仕事をしていて現実を忘れていても、夜になればこうして涙と悲しみは忍び寄ってくる。拓真に会いたい。
それは無理だとわかっている。でもせめて、画面の中だけは。
そう思って私はこれで最後ともう一度スマホに指をつけて再生をする。唯一残されている拓真の動画。これだけが今、拓真に会える方法だったから。
涙で滲む目で画面を見る。見慣れた拓真の全身が小さく映る。君は最初の五秒、近寄る私に気づかない──はずだった。
え? と頭の中で小さくつぶやく。
画面の中の拓真がこちらに向かって来ている。肩で風を切るように歩いて来て、全身映っていたはずの彼の姿は上半身しか映らなくなっていた。
いつもの待ち合わせ場所の駅前の時計台。他の待ち合わせる人たちがたくさんいるそれを背景に、画面の中の拓真はこう言った。
『美帆のバカ! いつまでうじうじ泣いてんだ!』
それは生前と同じ彼の怖くない怒り顔だった。
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