第1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 目の前の酒が底を尽く。本当に、合コンなんて楽しくない。「そこにいてくれるだけでいいから」なんて幹事の一人の香織に頼まれたけど、今回は大人数で特に苦痛。でも、ハッキリ断れなかった私も私かな……。 「何か頼む?」 顔を上げると、一人の男がいた。丸い目に、高い鼻、薄い唇。なかなか整った顔立ちをしている。彼は、メニューを差し出してくれていた。お礼を言って、カシスオレンジを頼む。 「えーっと、名前は……」 男はカラカラと梅酒の入ったグラスを振りながら尋ねてくる。 「小宮」 ぶっきらぼうに答えたのに、彼はテンション高く返してきた。 「そう!小宮紗英ちゃん!!K大学だったよね!」 最初の自己紹介の時の記憶で言っているのだろう。私は、彼のことは欠片も思い出せないけど。 「俺、中曽根敦!覚えてねー」 へらへらと笑う彼。とりあえず暇だし付き合うか、という気になった。 「紗英ちゃんは何学部だっけ?」 「栄養学部。中曽根さんは?」 「俺?俺は、M大の医学部だよ」 その言葉に驚いて、思わず背筋が伸びてしまった。 「めっちゃ頭いいじゃん!医者になるの?」 彼は梅酒を飲んで、高い天井を仰ぐ。 「うーん、どうだろう。何て言うか、ヒトの身体に興味があるんだよねえ」 それは、意外な答えだった。医学部は医者になりたい人が行く場所だと思っていたのだ。 「ヒトの身体?」 「うん。例えば、ヒトの身体ってどのくらい耐性があるのかな、とか」 「耐性??」 彼の目は、自分の気持ちを表す言葉を探すのに夢中なようだった。自分の夢を語る無邪気な目。 「例えば、どのくらいの力が加わると立てなくなるのかな、とか、医療で認められてる薬でも、致死量ってあるのかな、とか」 「へ……へえ」 引く。普通に引く。なんでこの男を連れてきたんだよ、香織!!そんな気持ちは言葉に出せるわけもなく、私は固まってしまった。 「女と男でも違うのかなー。まだ、女ではやったことないんだよね」 こいつ、ヤバい。寒気がした。来たばかりのカシスオレンジを横目に、トイレに行くと言って席を立った。無論、そのまま店を出る。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加