1.

11/14
前へ
/609ページ
次へ
 それはおそらく、今までずっと、隣にいたからなんだろう。それで習慣のように、つい振り向きそうになるのだ。 ハナは、その切ないような寂しさの意味を掘り下げようとはしなかった。そうすると、きっとまた、良くなりかけている悩みをふやすだけだからだ。  時間をかけて、軽く雑誌などを買い、ようやくマンションに戻った時は、もう日が落ちていた。 カギを開け、中に入る。その時、人影が動いて、怯えたハナは逃げ出しそうになった。 「違う俺や、俺。勝手に悪いとは思ったけど、外で待ってるのいややし……」  ヒロだった。  ここのところプライベートでは全く行き来がなかったが、新人の頃はよくどっちかの家に泊まりあってネタの練習をした。その方が便利だったから、お互いの合鍵も持っているし、それは今もそのままだ。  それでも、ヒロが連絡もせず、いきなり部屋にいたことなんてめったになく、ハナは心底驚いた。 「なんや、どうしたん」 「うん、ちょっと時間できたからよってみた」 「そか」 ハナは冷蔵庫に入っているお茶を出して、ヒロにすすめた。 ヒロは意外そうに、よく冷えたペットボトルを受け取った。少し前のハナには、そんな気配りなどとてもできるような余裕はなかった。 嬉しくなって、ちょっと肩の力を抜く。今日はいつになく緊張していた。 ヒロはおもむろに切り出した。 「ハナ、俺、言いたいことがあってん」 「お?」 ハナは、ヒロが座りやすいようにあたふたと片付けしていた手を止めた。 ぎゅっと胸が苦しくなる。 何か大事な話があるのかもしれないとは思っていた。 多忙なヒロが何の用もなく、こんな半端な時間に来るわけがない。 「俺、相方な、ほんまにお前でよかった思ってる」 真面目くさったヒロの口調に、ハナは苦笑した。 「無理せんでええよ」 「ホンマやって」 ヒロはむきになって答えた。
/609ページ

最初のコメントを投稿しよう!

414人が本棚に入れています
本棚に追加