414人が本棚に入れています
本棚に追加
それはおそらく、今までずっと、隣にいたからなんだろう。それで習慣のように、つい振り向きそうになるのだ。
ハナは、その切ないような寂しさの意味を掘り下げようとはしなかった。そうすると、きっとまた、良くなりかけている悩みをふやすだけだからだ。
時間をかけて、軽く雑誌などを買い、ようやくマンションに戻った時は、もう日が落ちていた。
カギを開け、中に入る。その時、人影が動いて、怯えたハナは逃げ出しそうになった。
「違う俺や、俺。勝手に悪いとは思ったけど、外で待ってるのいややし……」
ヒロだった。
ここのところプライベートでは全く行き来がなかったが、新人の頃はよくどっちかの家に泊まりあってネタの練習をした。その方が便利だったから、お互いの合鍵も持っているし、それは今もそのままだ。
それでも、ヒロが連絡もせず、いきなり部屋にいたことなんてめったになく、ハナは心底驚いた。
「なんや、どうしたん」
「うん、ちょっと時間できたからよってみた」
「そか」
ハナは冷蔵庫に入っているお茶を出して、ヒロにすすめた。
ヒロは意外そうに、よく冷えたペットボトルを受け取った。少し前のハナには、そんな気配りなどとてもできるような余裕はなかった。
嬉しくなって、ちょっと肩の力を抜く。今日はいつになく緊張していた。
ヒロはおもむろに切り出した。
「ハナ、俺、言いたいことがあってん」
「お?」
ハナは、ヒロが座りやすいようにあたふたと片付けしていた手を止めた。
ぎゅっと胸が苦しくなる。
何か大事な話があるのかもしれないとは思っていた。
多忙なヒロが何の用もなく、こんな半端な時間に来るわけがない。
「俺、相方な、ほんまにお前でよかった思ってる」
真面目くさったヒロの口調に、ハナは苦笑した。
「無理せんでええよ」
「ホンマやって」
ヒロはむきになって答えた。
最初のコメントを投稿しよう!