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 抱きついてきた理由が、ようやくヒロにはわかった。顔を見られたくないのだ。  アホなんはハナのほうや。  ヒロは困惑しながらも胸の中で呟いた。 今までずっと何年間も一番隣にいた自分は、誰よりもハナの顔を見てきた。 こんなときにどんな表情をするのか、自分の顔が見えないハナ自身より、よく知っている。  ……泣きそうなんやろ? 『ハナが相方でよかった』って、それしきの言葉くらいで。そんなん、口に出さんだけで、ほんとは今までも普通に思ってたのに。 「ハナ」 「……」 ヒロは必死にしがみついているハナにぎゅっと腕をまわした。 言葉に出さなくても、ハナはいろんな態度や表情でヒロに伝えていた。 だが、声をかけたほうがいいかな、と気付きつつ、見守るという言葉に任せて、ヒロはハナを放ってきた。  気になって振り向くと、ハナはいつも、ポツンと一人うつむいて、また何か諦めてしまったように表情を無くしている。 ハナが一人で殻に閉じこもってしまったのは、一人にさせたからだ。 ヒロはハナが休んでからずっと、自分を責めていた。 この激烈な世界で、その弱さと脆さを持ったまま、戦い続けていくのであろうハナに、ヒロはかけるべき言葉がみつからない。 思わず、ハナを抱きしめ返していた。強く。 「ごめんな。一番ハナが欲しがってた言葉、探してみたけどわからへん」 ハナはぎこちなく顔を向けた。 ヒロの予想通り、潤んだ目が赤い。 「せやけど、結局、それはハナにしか見つけられへんのかもしれへん。 だから、俺、それまで待っとるよ」 「……」 「ゆっくりでええから、ハナはハナらしくやっていけばええやん?」 渦をまくような悩みを、ヒロの言葉はばっさりと絶ち切る。ハナは、目をそらした。 「そんな呑気な話、無理や、お前が待てるわけないやろ」 「俺の隣で探してたらええ」 ヒロの答えはシンプルで力強かった。  ハナは、困ったように笑った。時々、ヒロのこの揺ぎ無いところに負けてしまうことがある。 でも、今はその明快さに身体が軽くなったような気がした。
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