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「あ! やばい俺、もういかなあかん!」
唐突にヒロが、大きな声を出した。不自然な振動がヒロのズボンのポケットから響いてる。
「何、仕事?」
「そ。久しぶりにハナんち来たら、道迷いそうやった。もうちょっとマメに寄らんとあかんな。また来るわ」
ヒロはそそくさと玄関に向かうと、腕時計をちらちら見つつ、小走りで出ていった。
「……慌ただしい子やねえ」
ハナは呟いた。
でも、何だか胸の中が暖かかった。
ドキドキドキドキ…意外なくらい早い心臓の音。
ぎゅっとして抱きついた時、お互いの心音が重なって聞こえた。
ハナはヒロの鼓動が、自分に劣らず早く激しく打っているのに気付いた。
ヒロも緊張しているのだろうか、と思った。
舞台に立つ直前でも、涼しい顔をしているヒロが、そんな風になるのに驚きもしたけれど、不思議に嬉しかった。
久しぶりに締め切っていた、家のカーテンを開けてみる。
外の空気が一気に流れてきた。
味わうように吸い込んでみると、淀んでいた身体が内側からきれいになっていく。
ハナはベランダに出て、背伸びをした。遠くにヒロの姿を探せたら、自分もどこを目指して歩き出せばいいのか、わかるような気がした。
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