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そんなある日。
それはトーク番組の収録の日。リハーサルが終わってハナは早々に楽屋に引っ込んでいた。ヒロはふとモニターで収録されたその映像を見ていて。
「・・・なんやこれ」
思わず口から出た。忙しくてオンエアもまともに見ていなかったから、自分たちの映像をしっかり見るのは久しぶりで、ハナの表情をはじめてまともにみた。
人見知りなヒロは、普段からまともに目も合わせられないのだから、真正面からちゃんとハナをみたりしていなかったのだ。
ハナは確かに仕事としてはこなしていた。トークのテンポもゆるいツッコミもいつも通りだ。でも、その目は全然笑ってない。何も見てない。真っ暗な空洞のようで、そこにいない。
これは、駄目だ。
ヒロは、ただ事でないと直感して、そのまますぐにハナの楽屋に向かった。
「ハナ、俺。ちょっとええか」
ノックしてドアを開けた。ハナは座って、テーブルの一点をじっと凝視していた。
今でも、ヒロはその時の空気を忘れていない。
あまりに濃密に、空間がハナの鬱々とした気持ちに染まっていた。
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