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「すいません、水で……」 「そんなのカラダ通過するだけやで!! せめて甘くせな、力でえへんやろ!」 「ではこちらを」  ラード先輩のすかさずの横やりに、ポッチャリ―がメニューを裏返す。  そこにはバター茶、特濃カルピス、バナナシェイク、ホットチョコレート……と、ハイカロリーな飲み物が目白押しだった。  ようやくメニューのはしっこにココナツミルクとあり、ハナは救われた思いでそれをオーダーする。わりとさらさらしてますけど足りますか?と、心配そうに念を押されたが、飲み物に濃度を求めたくないハナは、重ねてそれをお願いした。  控室には冷蔵庫のみならず小さな調理場まで完備されている。ポッチャリ―は棚からココナツミルクパウダーを取り出して温め、ミルクと攪拌しはじめた。動きは機敏で手際もよい。 「ああみえて料理上手なんや。ことに煮込みが絶品やわ」  ファット先輩が嬉しそうに目を細めた。簡易コンロの上には鍋も用意されている。  大御所の控室にもかかわらず、その一角は安アパートの台所のように所帯じみていた。しかし、オイリーの二人にとって、緊張の緩和に最も効果的なのは食物である。大舞台の時こそ、部屋の一角からコトコトとスープを煮込む匂いや、天ぷらを揚げるジュワーっという油の跳ねる音、そういったときめきの環境づくりが必須なのだ。 「一仕事のあとで揚げ物が待ってると思うと頑張れるんや」 「ご飯、一升炊きで頼むで」 ファット先輩とラード先輩の情熱的な期待の声に、ポッチャリ―は勢いよく頷く。ハナはひとまず二人の前に立ち、深々とお辞儀をした。 「先輩、本日は誠におめでとうございます」
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