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業界一ゆるいバラエティと言われる『ハトチャンネル』は、これもまたゆるーく好評で、今季の番組改変も無事にくぐりぬけ、続投が決まったばかりだった。
浮かれたヒロはもう一度頭の被り物をかぶり直し、着ぐるみを持参してきたハナも白きハトの姿になって二人横並びになる。
ドバトと白鳩が揃うと圧巻だった。
狭い楽屋に巨漢が三人と着ぐるみが二体、標準体型のオジサンが一人。
息苦しいほどの人口密度である。しかも喜びを抑えきれない二人は勇んで羽ばたいている。酸素が薄い。空気がぬるい。
だが、想像以上の出来の良さにオイリーもポッチャリ―も会心の笑みである。
「好きなように使ったらよろし」
ファット先輩は腹を撫でながら鷹揚に頷いた。
この腹を撫でる仕草は上機嫌であるのと同時に、そろそろ美味いもんが食いたいなという無意識の動きである。
とにかくオイリーは、弟子の不出来は許せても一秒たりとも空腹であることは耐えられないのだ。肥満を貫くのにも継続した努力が必要なのである。
ラード先輩はそそくさと携帯を取り出した。
「アンタらこれからメシでもどうや。ポッチャリ―もようやった。ハナちゃん
は相変わらず小粒やし、ヒロは棒のようや。佐崎さんもお疲れさんやろ。肉でも食わな」
わーい、という歓声が上がると同時にラード先輩はもう予約の電話を入れていた。
「お肉」「お肉」「お肉」
ハナとヒロ、ついでに佐崎の三人はキャッキャと浮かれ、輪になって回り出した。子供のように無邪気な喜びようである。
無理もない。愛妻ぽんちゃんにご飯を作ってもらっている佐崎はともかく、ハナとヒロは普段、家ではうどんに漬物ぐらいの粗食なのだ。
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