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「今度こそ本当の恋だと思う」
テレビ電話の向こうでマリアは高々と宣言した。
形のよい弓なりの眉が思いつめたようにぎゅっと寄せられている。片想いの苦しさで、マリアの頬は早くもやつれていた。
恋の始まりには必ずハナに報告するのが、マリアの律儀さである。
携帯のテレビ電話では、十代の小娘のように、夢見がちな瞳のマリアが映っている。
「けど藍野さん、そこいきつけのネイルサロンなんやろ。手を握ってお話するんは、当然と言えば当然のことやない?」
「ふっふー! そう思うのは素人!」
恋にのぼせたマリアの鼻息は荒い。
確かにマリアは達人である。しかしその得意分野は片想いと失恋という物悲しいジャンルに限定されている。
マリアはハナの的確な指摘にも怯むことなく、真剣な恋心を吐露した。
「彼女、年はハタチそこそこで見かけも華奢だけど、ミルキーブラウンのストレートヘアがめちゃくちゃ可憐で似合ってて、どことなく気高い雰囲気があるの。制服の黒のワンピがドレスみたいで、まさに理想のお姫様。新人っていうから警戒したんだけど、目の前に来た途端にズキューンよ!!」
「よっぽど可愛ええ子なんやねえ。今度こそいよいよやない?」
「やっぱりそう思う!?」
食らいついてきたマリアに、ハナはぎこちない微笑みを浮かべた。すでにマリアは今年、数回にわたってズキューンからのバターンで、儚い恋心に終止符を打っていた。
「彼女ね、すごく真剣に私の爪、通常の時間の何倍もかけてみっちりやってくれたの。これって私に気があるからよね?!」
「う、うん」
基準の何倍も時間がかかるということは、単に下手くそということではないのか。疑問がかすめたが、それを言いだせる雰囲気ではない。
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