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「野次馬根性丸出しで雑談したがる子もいるのに、その子に話しかけたら集中してるんだから黙っててって……ほんとすれてない!」
ハナは目を丸くした。
「ええの? お客さんに黙れ言うのありなん?」
「照れてるのよ! 私にはわかる」
普段、あれだけ頭脳明晰で戦略家のマリアが、恋の魔法にかかるや、この体たらくである。マリアは自慢げに指をアップで映した。
「みてこの爪、一つ一つ違いがあるでしょ? この創意工夫に只ならぬプロ意識を感じない?」
プロなら不揃いな出来にはしないのでは……と、またもや疑問が浮かんだが、ハナは余計なことは語らなかった。
「藍野さん、そんでせっせと毎日通うとるんやね。気持ち、通じるとええね」
「うんっ」
大きく振りかぶってマリアが頷くと、ぶん!と髪が揺れて、歌舞伎の連獅子のように激しく乱れた。顔をあげたマリアは震える声で言った。
「私ね、今年のクリスマスに告白しようって思ってる」
「ほんまっ? 頑張ってや、藍野さん!」
「だってせっかくのクリスマスだもん、プレゼント渡して食事に誘ってみるつもり」
マリアはすでにリボンのついた小箱を用意していた。
あきらかに本命用・高級ブランドのロゴ。しかも指輪にジャストサイズの箱。鬼気迫るほど本気だ。
マリアは、例年テレビの深夜放送を眺めながら一人、冷えた鶏肉をかじる自分にオサラバしたいのである。
「ハナちゃんはどうなの、今年のクリスマスはお仕事? それともあのスットコドッコイと過ごすの?」
相変わらずヒロに対してマリアは辛辣だった。しかし別にマリアに悪気はない。これまでの実績に伴った呼称で呼んでいるだけである。
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