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その部屋の空気の重さは、そのままハナの心理状態を表していた。ヒロはその尋常でない様子にひるみながら、おずおずとハナに近づいた。
「ハナ?」
「……ん」
かろうじて返事はした。
「その、なんか……どうや、最近」
「……何で」
「いや、なんもないなら別にええねんけど」
ヒロはハナのどんよりした気配に押されて何をどう言ったらいいのかわからなかった。
「次のコント、何やるかなんやけど」
「ん」
仕事の話題に切り替えると、ハナの目にいささか力が戻った。だがそれは好きなものに目を輝かせるとかいうことでなく、単に義務に似た条件反射だった。
「なあ、苦しいんか」
「……」
静かな問いかけにも、ハナは答えなかった。焦りながらヒロは、不器用な言葉をつないで、励ましてみた。
それですらこういったことの苦手なヒロには精一杯だったし、画期的なことだった。ちょっと前までのハナなら驚いてそして、照れくさそうに笑ってくれただろう。
しかし、事態はもはやその段階ではなかった。ヒロの必死の言葉は全てハナを通過するだけで、何一つ届かない。そこには間違いなく、はっきりした壁があった。
「ハナ、俺の言うこと聞いてんのか」
ヒロはいつしか、味わったことのない嫌な汗をかいていた。
ハナは、わかった、と機械的に答える。だがこんな引きこもった様子でわかっているはずがない。
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