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「僕? んー……僕な、夢があるねん。めっちゃ平凡なことやけど」
一転、ハナが恋愛モードになった。
スットコドッコイと言われても、全く躊躇することなくヒロに夢を描けるのは愛に他ならない。りんごのように赤く頬を染めたハナに、マリアは身を乗り出した。ここからはいつものごとく恋バナトーク全開である。
「やーん、教えて教えて!」
「あんな……笑わん?」
「笑う訳ないじゃない! ほらほら」
「まず待ち合わせをするねん」
ハナは恥ずかしそうにその夢の全貌を語り始めた。マリアは長い睫毛をしばたかせる。
「え、一緒に住んでるよね?」
「それじゃわくわくが足らへんやん。せやからあえてその日は別々に出てって、駅で会おうねって約束すんのや。ここ大事なんやけどな、朝から『きっと君は来ない~』ていう曲、エンドレスで聞きこんでな、ハラハラ感ましましにしとくねん。
そんで、僕がな、来てくれるやろか、やっぱりアカンかも……そう思いながら立ってると、なんと後ろから『お待たせ』言うてヒロが来んねん!」
「そりゃ来るよね!」
人の夢には冷静なマリアである。
「でもって、駅から家まで手ぇつないで歩いてな、商店街で鳥のモモ焼き買うんや。僕がな、ちっこいのかおっきいのか迷うてるとヒロがな『そんなん悩まんでええ、俺がどっちも買うたる』言うんやわ。カッコええやん? めっちゃ男前やん?!」
「確実に食べ過ぎるよね?!」
だが、夢を語りだしたハナに、マリアのツッコミは心地よい声援にしか聞こえないらしい。
「でな、でな、お家に帰ってからな、僕が『どうしよう、ケーキ買うの忘れてもうた』言うたら、ヒロが『ここにあるで~』言うて、特大のケーキ出してくれるんや。なっ、これめっちゃサプライズやない?」
「確かにその瞬間まで特大のケーキの箱に気付かないってびっくりだよね!」
ハナは理想のクリスマスに酔いしれているため、全てのツッコミはさらさらと流されていく。
「僕は僕でな、ヒロには内緒で頑張ってツリーとか飾って、お部屋きらきらにしとくつもりや」
ほぼ同居していて、いつ内緒で部屋を飾るのだろう……
しかし、そんな細かいことなどどうでもよかった。嬉しそうに語るハナの姿に、マリアはその夢への切ない期待を理解したのである。
「これぞクリパってやつね! わかる、憧れる!!」
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