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ヒロは抜けているが、仕事の面では努力家である。
一緒に暮らしてみて、その想いはますます確固たるものになった。
モデルの仕事の傍ら、毎日欠かさずお笑いの動画を眺め、メモをとる。積み重ねられた知識は相当なもので、どの年代の売れっ子芸人も流行りのネタも、即座に暗唱できた。
気になるコンビがいれば、同じネタを自分でもやってみる。小道具づくりからネタの仕込みまで、寝る間も惜しんで準備する。笑いのツボをメモしたノートは書きこみでびっしりだ。
なのに思い浮かぶギャグは『猫が寝込んだ』レベルのうすら寒いダジャレなのである。インプットに対してアウトプットがお粗末すぎる。
しかし、これほどまでに実を結ばない努力を、何年もたゆまず続けてきたその精神力は尊敬に値する、と思う。
「なあ、クリスマス、本当にええの。僕が言うた地味なんで」
ハナはヒロの傍まで近づくと、ヒロの前で正座になった。
お家でクリスマスの夢はすでにお願いしていて、ヒロは快く了承している。ヒロはその生真面目な切り出し方にきょとんとしたが、すぐに相好を崩した。
「ええやん。俺もめっちゃ楽しみや。一緒にこたつでのんびり乾杯しよ」
「けど、あんま華やぎが足らん」
「何を言うとるんや、ハナがおったら百万ボルトの輝きや!」
ヒロは至極真剣である。実際、ハナがにっこりするだけで部屋も心もパーッと明るくなる気がするのだ。愛は電力すら賄う。
「御馳走どうしよ、僕、レストランみたいなのできひん」
「大丈夫や。俺、めっちゃでっかいケーキ買うてくる。ハナ、甘いの好きやろ。それにこういう過ごし方って、なんやその、まるで、その、アレやない? な?」
ヒロは言いながら唐突に照れた。照れるヒロは田舎の高校生のように初心い。雑誌を飾るクールなモデルの顔とは大違いだ。
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