いつでもとなり

72/176
前へ
/609ページ
次へ
 名誉だろう、と胸をそらした巨匠を前にヒロは思わず天を仰いだ。  どうりで行く先々でこの両生類を見かけると思ったら、ウーパーのヤツ、やる気でやっとったんや……!  宮本は自らを讃えるかの如く、輝くようなドヤ顔だった。 「な? どの現場にいても俺の存在を感じて心強かったろう!」  だからどの現場にいても暑苦しい視線を感じて落ち着かなかったんや……!! 「先生、ほんま今年はお疲れさんでした。ゆっくりワイハでお過ごし下さい」  ヒロは動揺を抑えながら必死で言った。  待ちに待ったクリスマス、これからハナとお家デートという時に、巨匠に邪魔されてはかなわない。いっそこのままハワイに永住してくれないか、と心から祈る。しかし、宮本は菩薩のごとき慈愛を込めて断言した。 「いやいや安心しろ、来年もまたお前をとことんまで撮り尽くす」 ヒロは身震いした。 「ほんま大丈夫ですから、先生は恋人との時間を大事になさって下さい」 「確かに天才にも休養が必要だ。俺はホワイトバードの愛なしでは生きられないのだ。ワイハでは命の洗濯をしてくる。だからヒロよ、くれぐれも俺の居ぬ間にハナちゃんと成し遂げるなよ」 「や……あの、それは」  さっそく今夜にでも大人の階段を駆け上がるつもりのヒロは、しどろもどろになった。宮本が敏感にその気配を察する。ウーパーの属性であろうか、地震を察するナマズのように勘は鋭いのである。 「おい待て、お前まさかこのタイミングか。ここまで空振りしてきていきなりやる気を出すな! そもそもブレイク中でそれどころじゃないはずだろ」 「ん……まあ……それとこれとは……」
/609ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加