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今にも車から降りかねない宮本の形相に、ヒロはさらに後じさりした。
と、そこに。
車の後部座席から『先生、飛行機のお時間が』と甘い声がかかった。途端に宮本がでろーんと笑み崩れる。
「おおっと、すまないハニー。ヒロのヤツ、理解が乏しくて話すのに手間がかかるんだ。もう行こう」
「ちょ、待ってセンセ、先生の彼女そこにおるの? 俺も先生の恋人にご挨拶したい。したいしたーい、させてーやっ」
「駄目だ、お前なんぞに勿体なくて見せられるか」
後部座席の窓ガラスにはスモークが貼られており、真横からは見えない。ヒロは野次馬根性丸出しで開いた運転手席側の窓から奥を覗こうとする。以前、水族館で後姿だけはちょろっと見掛けたが正視したことはない。
ヒロは隙間を狙い左右に体を揺らして接近する。だが、宮本はすかさず自らの体をシャシャッとずらして阻止した。
「ええやないですか、ちょっとぐらい! ケチ!」
「うるさい! 汚い手で俺の車にぺたぺた触るな!」
たまりかねた宮本が窓から顔を突き出した瞬間、すかさずヒロは身をかわして正面にまわりこんだ。フロントガラスに額をくっつけて奥を覗く。
……!!
「と、鳥……?」
その衝撃の目撃にヒロの眼は約1.5倍に見開かれた。
心臓がバクバクした。ちらりとしか覗けないが、後部座席に座るその姿は明らかに鳥である。
ハトではない。庶民派着ぐるみとは一線を画した気品ある巨大な白い鳥。まばゆく輝くふわふわの羽根、たおやかに重ねられた両手羽。鳥の姿でありながら貴族的な気高さが漂っている。
「せ、先生、ホワイトバードって、ほんまにホワイトなバードやのん!?」
「俺のハニーを呼びつけにするな! たけみんはあまりに美し過ぎるがゆえに、一般人には直視することすらかなわんのだ。だから人混みに出る時は等身大のホワイトでバードな着ぐるみを着用し、その神々しい美貌をシャットアウトしている」
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