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「どうかどうか今度こそうまくいきますように。両想いになれますように」
小さな呟きだったが、ヒロは耳がいい。
何度もくりかえす祈りに、よっぽど勝算のない告白に挑むんやな……と、ヒロは心の中でいたく同情した。
恋がままならないことは身をもって体験中である。
女性は突然顔をあげると、そこからブン!と加速をつけて深々とお辞儀をした。風圧を感じて思わずよける。角度が変わって斜めから眺めたことで、ようやくヒロはそれがマリアであることに気付いた。
……なんて日や! 宮本先生だけやのうて藍野さんまでお出ましや!
ギョッとして思わず木の影に隠れた。
ヒロはズケズケ言うマリアが苦手である。しかもそのほとんどが的を射てるだけに、負けっぱなしで今に至る。
マリアはヒロなど眼中になく、気迫の漲った顔で踵を返した。仕事の時の藍野マリアはプロの風格に満ちているが、このときばかりは恋に生きる一人の女である。
よっしゃ勝負や、きばったれ藍野さん!
アンモナイトな頭を揺らしながら闊歩する後ろ姿にいじらしさを感じて、ヒロは物陰からその恋路の幸運を祈った。
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