いつでもとなり

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*******  そんな訳でマリアである。  行きつけのネイルサロンは著名人の出入りの多い土地柄、一人一人の間にしっかりした仕切りがある。  天上からこぼれてくるようなオルゴールのヒーリング曲。意中の人・沙奈ちゃんに手をとられて爪を整えてもらっていると、その静かな息づかいまで伝わってきて、世界に二人だけのような気持ちになる。  ここは癒しのときめき空間。マリアにとって至福の時間である。  沙奈はいつも初々しい。  化粧っ気もないのに、この肌のきめの細かさときたらどうだろう。沙奈ちゃんの小さな手から伝わる優しい温もりにマリアはポーッとなる。  愛想が良すぎないのもいい。  マリアは上っ面なお世辞には食傷気味である。  沙奈の沈黙は心地よく、たまに聞かせてくれる声がまた可憐だった。さらに好みなことに、くっきり二重の瞳は少し気が強そうで、誇らしく咲く一輪の花のようだ。  気高い乙女に惚れがちなマリアにとって、沙奈ちゃんはまさにドンピシャの女の子だった。  いけない、うっとりしてる場合じゃないわ。  マリアはハッとして時計を見た。沙奈に見惚れ、あれこれ想像しているとあっという間に一時間ぐらい経過する。  しかし今日は白昼夢を見ている場合ではない。ネイルが終わるまでに沙奈を誘い出さなければならないのだ。  マリアは話題の切り口を探した。沙奈ちゃんは軽々と話をするタイプではないため、ここはまず、自らが流れを作らねばならない。 「そういえば今日はクリスマスなのよね。どうしようかな。私、ヒマで」
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