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上目遣いでじっと沙奈を様子を伺う。
まわりくどいやり取りに目眩がしそうだ。ビジネス上の付き合いであれば鮮やかに会話を回せるのに『好き』の二文字が宇宙の果てまでも遠い。
沙奈は目線を落としたまま、特に、と言った。
「そっ、それじゃあ、私とどこか行かない?」
「え?」
マリアは撮影時に見せる最高の笑顔で誘った。
沙奈は固まったままだ。時が止まったような空白が訪れる。マリアは笑顔のまま冷や汗が流れるのを感じた。
驚かさないように、怯えさせないように、自然なように。
考えれば考えるほどぎこちなくなる。しかし、この程度のノリの悪さは想定内だ。マリアはひときわ明るい声を出した。
「ふふ、良い事思いついちゃったわ。だってせっかくのクリスマスなのに一人なんてつまらないじゃない。大内さん、一人だったら付き合って。私、こういうイベントの日に寂しいの苦手なのよ」
「でも……なんで私を」
「それは」
好きだからだよ!といきなり結論をぶち込みたくなったが、自ら見えない手綱を引いて気持ちを抑える。
「えーと、何ていうのかな、あえて理由をつけるならお礼……そう、お礼よ! だって、いつもすごく丁寧に仕上げてくれるし、センスもいいし、綺麗なまま長持ちするから助かってる」
「本当ですか」
沙奈は初めて嬉しそうに頬を染めた。よしきた!と、マリアはさらに熱心に言葉を重ねる。
「本当よ! 爪の事は私、これからもずっと大内さんにお願いしたいと思ってるし、せっかくオシャレして、爪もこんなに綺麗なのに一人で帰るの勿体ないし、大内さんさえよかったら付き合って! お願い!」
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