いつでもとなり

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 怒涛のように言い募ると、さすがに本気が伝わったのか、沙奈は驚いた風に瞬きを繰り返した。マリアは押しの一手で攻める。 「どこがいい? 予約いれるわ。フルコース? 懐石料理? それともうなぎ? すっぽん?」  オッサンの接待に慣れすぎたマリアの行きつけの場所はどこか中高年の匂いがする。沙奈は慌てて首を横に振った。 「申し訳ありません私、藍野さまが行かれるような場所なんてとても……」  どうみても披露宴レベルの格好のマリアに、沙奈は明らかに気後れしていた。  沙奈ちゃんは上京して間もない都会の一人暮らしである。生活は質素なものに違いない。ド派手な芸能人に遊びに誘われて躊躇するのは当然である。  しかしこれぞ駆け引き、マリアは譲歩したようにみせて、本命の提案をする。 「だったら沙奈ちゃんの行きたいところにしましょうよ。それならいいでしょ? 確かに行きつけの店じゃマンネリでつまらないし、私も同年代の女の子が行くような場所で遊んでみたいわ」  ハナちゃん、これでどう?! 自然なお誘いってこんな感じ?!  有り? それとも無し?!  もはやマリアの手は汗でべとべとだった。その手を沙奈に握られていると思うと恥ずかしさのあまり毛穴という毛穴を引き締めたくなる。  店内のオルゴールがやけに耳に響く。  師走のせいか第九がかかっている。確か歓喜の歌だったはずなのに、こんなにびくびくしながら聞くのは始めてだ。 「……それなら」  マリアは沙奈の一言に身を乗り出した。
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