いつでもとなり

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 仕事がらみで方々訪れることの多いマリアは、今時の目ぼしいスポットならあらかた押さえてある。クリスマスのイルミネーションも、遊園地でも、こじゃれた雑貨屋でもどこでもこいだ。  しかし、沙奈の答えはマリアの予想の斜め上だった。 「亀カフェ……駄目ですか」 「かめ? カメって甲羅がついた動きのトロいあれ?」  聞き返すのは当然だろう。意味もなく『鶴は千年亀は万年』というめでたい言葉が脳裏をよぎる。さすがのマリアもその程度には混乱している。 「はい。お客様がお話されているのを聞いたんです。場所もお店の名前もわからないんですけど。カフェにカメがいるなんて、都会ってすごいなって」 「そう……ね……」  たぶんそれは都会のせいではない。沙奈は無邪気にマリアの答えを待っている。マリアはその清らかな瞳に吸い込まれそうになった。  ここで『そんなヘンテコな店、知らんがな』とは死んでも言えない。  それにどんなヘンテコでも、そこなら沙奈は一緒に行ってくれるのだ。マリアは溌剌と言った。 「すごく興味あるわ。楽しそう! 私、予約いれておくわね」  それはどこなの? なぜ亀なの?!  マリアは心の声とは裏腹の笑顔で、沙奈に約束した。
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