いつでもとなり

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 議題はハナとヒロの卵についてである。  かのドジっ子鳩の宣言により、ハトたちは今か今かとハナが卵を産み落とすその日を切望していた。  ハナが卵を孕むことは生物学的に不可能なのだが、そんなDNAレベルの問題など鳩には関係ない。しかも樅の木が運びこまれてからというもの、鳩たちが誤解するような状況が続いたのだ。  ドジっ子鳩は語る。 「オスを部屋から追い出したでポッポ。いよいよポッポ! これは出産で気が立っているために違いないポー!」  ヒロに内緒でオーナメントを作成するためなのだが、ママさん鳩たちがこぞって『わかるわ~』と賛同。これが誤解1。  さらに、オーナメントが出来ずに涙ぐむハナ。これを窓越しに観察し、マタニティブルーと断定。残念な誤解その2。  そして連日オーナメント作りに励むハナ。せっせと綿を広げるその姿は、鳩たちに間違いなく卵を産む場所を準備しているのだと確信させるに至った。  問題はその完成したオーナメントである。  鳩たちはまだ目のついていないそれを鳩とは認識しなかったのだ。 「なんでせっかくのふわふわをギュッとしちゃったでポッポ」 「初タマゴだから巣作りも下手くそポッポ」  鳩に言わせてみれば、大事な卵を温める場所は程よく体を休められるサイズが必要であり、かつ均一にフカフカしていないといけない。  鳩は執着心が強い。  自らがこうと決めたら追い払っても追い払ってもしつこく同じ場所に巣作りする。種の継続に巣作りが重要だからこそこだわるのだ。  しかも鳩の繁殖期は年に三から四回。状態が良ければさらにこれを上回る。つまり成鳥の鳩たちはそのつど巣を作っていることになり、いわば施工のプロである。それゆえに棟梁の血が騒ぐ。
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