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あかん……もう無理や。
目頭がじんわり熱くなり、涙が滲んでくる。
振りだしに戻った現在、ここから目指したハトツリーなどできようはずもない。この部屋に戻るまで浮き浮きと妄想していた完璧なクリスマスも、大事なヒロの笑顔も消えてしまった。
ハナがひくっ、としゃくりあげたその時、携帯が光った。
反射的に掴むと、マリアの名前が表示されている。
とても電話に出るような心境ではなかったが、ここまで力を尽くしてくれたマリアにはお詫びをしなければならない。律儀なハナは通話に切り替えた。その途端だった。
「どうしよう、調べても調べてもどこにもないのよ。ネットにも引っかかってこないし、口コミも無し、知り合いにも聞いてみたけど誰も知らない。これって都市伝説なんじゃないの? そもそもこんな変なカフェなんかある? だって亀よ? 爬虫類よ? なんで猫とかウサギじゃないの!」
「ちょっと待ってどしたの藍野さん」
「ハナちゃああん!! 助けてえええ」
マリアの絶叫にハナの涙は引っ込んだ。あれほど有能なマリアが無力化している。ハナはマリアのピンチに背筋をシャンとした。
「僕にできることは何でも言うて。何を困っとるの?」
「ごめんねハナちゃん。でも私のこと一番よく分かってくれるのはハナちゃんだし、そもそも私の恋愛のことはハナちゃんしか知らないし」
マリアは軽くパニックを起こしているらしく、早口でまくしたてる。
ハナは落ち着かせようと、お高い贅沢ティッシュぐらいソフトなタッチで問いかけた。
「何が亀なん? 沙奈ちゃん、お誘いできたん?」
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