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「裏道の古民家風の一軒家や。気を付けて行ってな」
「ありがとハナちゃん……なんてお礼を言ったらいいか」
「そんな、」
ハナは電話越しに大きく否定した。ハナは人に感謝されることに慣れていない。自信のないハナは自分が誰かの役に立てるなんて思ったこともないのだ。
「何言ってん! いつも僕が藍野さんに助けられてるんやないか。藍野さんのおかげで僕のクリスマスもここまで来たんや。お礼を言うなら僕のほうや」
そのオーナメントは今現在、ズッタズタのボロボロなのだが、到底それをマリアに言うことはできなかった。
深夜、ハナの理想のために駆けつけて手伝うとまで言ってくれたマリアの好意を無にすることはできない。
マリアを励ましながら、同時にハナは自分も気合を入れ直した。
「早う行ってきいや。頑張って」
「ハナちゃん……あのね、いつもフラれてばっかりだけど、今日こそ私、ちゃんとできるかな」
マリアの声はわずかに震えている。こんなに緊張するマリアを仕事では感じたことはない。ハナは心をこめてしっかり答えた。
「うん。大丈夫。藍野さんは大丈夫や。安心してええよ」
ハナの大丈夫を聞いて、電話の向こうのマリアが大きく息をする。こんなピュアな恋愛をするマリアをハナは心からええ子やなあ、と思う。
マリアとの電話を切ってハナは改めて部屋を見回した。マリアも頑張っているのだから自分ばかり挫けてはいられない。
換気用の小窓をきっちり締め、腕まくりをしてひとまず片付けを始める。鳩のせいもあるが、部屋はここしばらくの忙しさでかなり汚れていた。
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