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「せやから!! お前がこのままやったら勿体ない言うたんやないか。だから俺はもう一度ペンちゃんギンちゃんやろうと思うて、ギンと会う事にしたんや」
「ほー、やっとその気になったんか。ええ事やー」
お笑いを心から愛する男・ヒロは罵倒されているのに嬉しそうな声を出す。
「ちっとも良くあらへん。会ったらアイツ、やっぱりこれで最後にしよ言うてきよった。せやったらわざわざ会わんと電話の時にそう言えばええやないか。ほんまにトロ臭い奴や。反吐が出るわ」
ペン太の顔が歪んだ。その顔はまるでいじけた子供みたいだ。そして覗き込んだヒロに気付かれまいと、いきなり片腕を振り上げた。ヒロは思わず身構えた。
「ちょ、何するんや」
「もう返品なんぞかまへん。こんなんブチ捨てたるわ!」
ペン太は片手にずっと握っていた平たい箱を床に叩きつけた。その拍子に蓋が開き、箱の中身が散らばる。ペン太はそのままヒロを突き飛ばして店を出ていった。
「大丈夫ですかお客様、お怪我は」
「俺は平気やけど……」
ヒロは床に落ちた中身に目が釘付けになった。
それはもともとヒロが買おうと思っていた、二つお揃いの派手な赤い蝶ネクタイだった。
ペン太は仕事のときいつも赤い蝶ネクタイをしている。一人のときもコンビでやってきた時のまま同じものをずっと使っていた。とうに古びてゴムものび、生地も毛羽だっている。だが、絶対に他のものには変えなかった。
そんなペン太が新たな蝶ネクタイを用意したという事は、心機一転、本腰をいれてコンビをやろうという気持ちの表れだ。ヒロもそう思ったからこそハナへのプレゼントをネクタイにした。
芸人にとってお揃いの衣装を誂えるのは特別である。ペン太がヤクザみたいに荒れ狂っているのは失意の裏返しに違いない。厄介な性格だが、こんな形でしかペン太は気持ちを表現できないのだ。
「あー、ちょっとすんません、また来ます」
ヒロはその蝶ネクタイを引っ掴むと、ペン太を追いかけた。
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