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「電話したらええやろ」
「つながらん」
「じゃ、住んでるとこに直接いけばええ。なんならバイト先で待つか」
「前に家賃の安いとこに移ったらしいんやけど、それがどこかわからん。バイト先も知らんし、友達関係も知らん」
「まさかやろ! 何かないんか思い出す事の一つや二つ!」
ヒロの声が裏返った。愛情深いヒロにとって相方がどこにいるかわからないなど、ありえない事態である。ペン太は呻いた。
「俺、ギンのこと舐めてたん。アイツ、俺が言う事なんでも聞きよるねん。
せやから今回かて断られるなんて思うてもみなかった。呼べば来るって思うてた。だってアイツ、俺のことお笑いの天才やていつも褒めてくれてん。ペン太さんペン太さん言うて、俺のあと追っかけて……」
ペン太は思い出したのか、目線が遠くを彷徨った。
「俺、自分のネタがアカンくて受けへんの、みじめやった。ギンに慰められるのはもっとみじめや。せやからピンの仕事して、そのうち調子があがってきたらスランプから脱出できるやろうと思うてた。
けど……いつのまにかえらいこと時間経ってたんやな。遅すぎてん、俺」
しんみり言ってペン太は唇をかみしめた。ヒロもつられて目線が下がる。その時、漸く腕時計の針が想像以上に進んでいることに気付いた。
「アカン!」
「やっぱ俺アカンか」
「違う、しょげてる場合やない! 大丈夫やクリスマスやし、あとは頑張れ!」
ヒロは強引にペン太の感傷をぶったぎった。
我に返ったのだ。
二人の行く末は気になるが、これ以上の深入りをしたらハナとの待ち合わせに間に合わない。そもそもネクタイがなかった段階で予定外の遅れが生じているのだ。
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