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「あのね、私、あなたのこと」
マリアは意を決し、すう、と息を吸った。心臓がドクンと波打つ。
その時だった。
「ここやここや! おお、ちゃんと亀がおる! ほんまに亀カフェや」
聞き覚えのあるウスラボケの声が響いた。
ウソダロ?!
信じたくないあまり、疑問がカタコトだ。ぎょっとして振り返ると、間違いなくヒロだ。恋の正念場に不安材料の代名詞であるヒロ。まさかの事態に悪寒が走る。
当然、沙奈ちゃんの目はヒロに釘付けだ。一応これでも国民的イケメン、辺りを払うような美形オーラである。綺麗なもの好きの沙奈ちゃんが見惚れるのも無理はない。
くぅ、大事な告白タイムだってのに……!
マリアは歯噛みをした。これ以上邪魔されてはかなわない。苛立ちを抑え、見つからないようにうつむく。しかしヒロは入るなり無遠慮に店の中を見回しており、即座にマリアに気が付いた。隠れようにもその髪型が巨大なアンモナイトなため目立つのである。
「うわわわ、何でここにおんねん! その恰好で亀カフェはないやろ」
思わず怯えた言動になるのは日頃のマリアの厳しい叱責による条件反射だ。しかしヤクザの親分に遭遇したかのような狼狽ぶりに、渾身のオシャレでこの場に臨んでいたマリアは憤慨した。
「何よ! そういうアンタこそ亀見つけてはしゃいでる場合じゃないでしょ! ハナちゃんはどうしたのよッ!!」
「違うねん、俺が来たかったわけやのうて、これは成り行きやねん」
「成り行き? 今日はクリスマスよ?! 流されてる場合かッ!!」
しどろもどろのヒロにマリアは思わずいつもの調子で怒鳴った。気付くと響き渡る怒号に沙奈ちゃんが呆然としていた。冷や汗が流れる。
マリアは慌ててウフフ、と愛想笑いをした。自分とて告白寸前の肝心のところだ。頑張れ、負けるなと自らを励ます。
ヒロは肩をすぼめてしゅんとしているが、何カ月も愛くるしい恋人と同居していながら未だにキスどまりの阿呆にかまけてる場合ではないのである。
マリアは改めて沙奈ちゃんに向き直った。
もう一度、すう、と深呼吸して気持ちを切り替える。
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