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そうよ、私だってここで終わりにしたくない。
マリアは頷き、完全に騒動に気を取られている沙奈ちゃんに改めて声をかけた。
「私からもお話したいことがあるの。いい?」
「あっ、はい」
沙奈ちゃんはマリアの声に振り向き、じっとその目を覗き込んだ。
マリアの心拍数がきゅんと跳ね上がる。大事な話をするときは相手の目を見て話すべきで、沙奈ちゃんのその姿勢は至極正しい。きっと昔気質のおじいちゃんにきちんと躾られたのだろう。わかっているが、黒く濡れた切れ長の瞳がきらきらして到底正視できない。
しっかりするのよマリア。たとえ玉砕しても想いはちゃんと伝えなくちゃ。
マリアは両手をぎゅっと組んで自らを叱咤した。
さあ集中!
口を開けた瞬間だった。
「どうしても駄目なんか、可能性ゼロか。なにが駄目やねん!!」
「可能性は無いです。終わりにするって決めたんです。ペン太さん!」
縁起悪いな、おい!
刺すような隣りの会話がマリアの声を遮る。ヒロが三人を店の片隅に移動させようとペン太の首根っこを摑まえるが、ペン太は全てを打ち消す勢いで大暴れした。
「俺とコンビ組まんでお前どうすんねん!」
「俺もうお笑いはいいんです」
「待て待て、そら勿体ないでギンちゃん」
「あらー、ギンちゃんお笑いの人なのー?」
大音量の声につられて再び沙奈ちゃんの視線がそれる。
このままではきりがない。マリアは思わず沙奈ちゃんの手をとった。何度も沙奈ちゃんからは握られているが(職務上)、自分から握ったのは初めてである。
「え? あの、藍野さま?」
「こっちを見て、大内さん。私ね、ただ親切にした訳じゃないの。あなたが、す」
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