いつでもとなり

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「俺……俺は」  ペン太はギンちゃんの腕を掴んだまま床を凝視した。その目から涙がほとばしる。突然の涙に一同ぎょっとしたが涙は途切れず、ぼたぼたと零れて床に落ちた。  ペン太は振り絞るように言った。 「他の誰でも駄目や。ギンがおらんと何も浮かばへん。俺の相方はギンだけや」  嫌がるばかりだったギンちゃんの動きが止まった。ペン太は子供のようにしゃくりあげた。そして涙を拭いもせず、頭を下げた。 「悪かった。俺、お前の気持ち受け止めきれんで待たせすぎた。お前がいつまでも待つ言うてくれてたのをいいことに甘えてたわ」 「ペン太さん……いいえ」  ギンちゃんは大きな体をかがめてそっと前かがみになった。おそらくペン太と話す時、いつもそんなふうに柔らかく近づくのだろう。諭す声はその図体に似合わず驚くほど優しかった。 「もういいんですよ。元々俺が一方的に追っかけてただけです。無理言ったのは俺だってわかってます。だから悪いとか思わないで下さい。ただ俺、この気持ちを抱えたままペン太さんの隣りでコンビを続けるのはキツイんです。ペン太さんだって苦しいでしょう、だから」  はい?  ペン太とギンちゃんの間で交わされる言葉の微妙なニュアンスの変化に、当事者の二人以外がもやっとした疑問を抱える。  ペン太はギンちゃんを見上げ、縋るように腕を引っ張った。マリアは目を疑う。その引っ張り方は自分には到底できない自然な甘えが滲んでいる。 「ギン、違う」
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