410人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
その頃。
ハナが窮地に陥っているその時、マリアは沈黙の重さにつぶれそうになっていた。親友は危機をも分かち合う。もし目の前にいれば二人は心細さゆえにひしっと抱き合ったであろう。
ひと騒動を終えて席に戻り、冷めたお茶を前にマリアは居住まいを正した。
気まずい。
気迫とは裏腹に躓きがちな今日、いっそ告白は仕切り直した方がいいのでは、と弱気になりかけた矢先のヒロの暴言である。
『告白ガンバ!!』
それもう言ったも同然じゃん!!
激励のドヤ顔を向けたヒロは、悲しいほど自らの失態に無自覚だった。
マリアは怒りのあまり、椅子でも持ち上げてぶん投げてやろうかと思ったが、時すでに遅し。沙奈ちゃんに『告白』のワードを聞かれた以上、覚悟を決めるしかない。
店内の静寂に反し、マリアの心は荒れ狂っている。
微動だにしないのは極度の緊張のためであり、その内側は阿鼻叫喚の嵐だった。あうー!であり、ウキャ―!である。
あうー!の内訳は、沙奈ちゃんの目の前で口喧嘩をふっかけた暴挙への反省であり、ウキャー!は告白目前の高揚である。
沙奈ちゃんはお茶に手も付けず、じっとカップを見つめている。
長い睫毛が陶器のような肌に影を落とし、薄茶の髪が柔らかくその輪郭を包んでいる。その姿は空から舞い降りた天使のように美しい。
……やっぱり好きっ。
マリアの乙女心が激しく疼いた。はじめて店で沙奈ちゃんを見たときに感じたときめきに間違いはない。
最初のコメントを投稿しよう!