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マリアの恋愛は常に勘頼みである。仕事は理性的だが、恋だけは本能でするものと信じて一目惚れするたびに突進してきた。
沙奈ちゃんはおそらくマリアが切り出すのを待っているのだろう。
いつまでも見つめていたいが、これ以上黙り込むのは限界だった。マリアは目立たないように、そしておまじないのように今日何度目かの深呼吸をする。
スッと息を吐いて、口火を切った。
「私からの話、続き、いい?」
沙奈ちゃんは即座に頷いた。まだ先ほどの驚きが覚めやらぬのか、頬がりんごのように色づいている。確かにいきなり芸能人が現れ、修羅場の挙句に告白である。興奮するのは当たり前だ。
「さっきはカーッとしちゃってごめんね。別に普段は怒りっぽくもないし、暴力とか嫌いだし、喧嘩とか考えられないぐらい穏やかに生きてます。ただ大事な話の途中だったから……でも結果オーライかな、あの二人、上手くいったみたいでよかったわよね。あはは」
マリアはあえて明るく笑いとばした。沙奈ちゃんの前ではいつもゴージャス&エレガンスに振る舞ってきたのに、ペン太にぎゃんぎゃん噛み付いていた野犬ばりの姿に幻滅されたのではないかと気が気でない。
しかし、沙奈ちゃんはひとまず空気を和ませようというマリアの意図を完全にスル―し、思いつめた眼差しで問い返した。
「……都会では、こげな事よぐあるんでしょうか」
「どこの部分? 芸能人? 喧嘩? それとも告白?」
マリアは強張る笑顔で聞き返す。何が沙奈ちゃんのNGポイントなのか、探りながらも動悸が止まらない。沙奈ちゃんは禁忌を口に出すことをためらうように、俯きがちに答えた。
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