いつでもとなり

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「今日、退屈しのぎに付き合ってくれって言ったのは嘘よ」  マリアは沙奈ちゃんを正視することすらできなかった。  これでもう終わりだ、と思いながら素直に気持ちを吐露した。 「私は女の子が好きなの。気持ち悪かったらごめんね。小さい頃から私が好きになるのはずっと異性じゃなくて同性で、物心つく頃には女の子に愛されたいって夢見てた。今日誘ったのは、あなたを好きだって伝えたかったから。そしてできるなら私と付き合ってもらいたかったから」 「藍野さま……」  沙奈ちゃんに慰められるのも、嫌悪されるのも辛くて、マリアはせっかちに頭を横に振った。盛りに盛った髪の毛が表面積の広さで風のうなりを上げる。瞬きもしないで凝視する沙奈ちゃんにマリアは言った。 「いいの、ホントに気にしないで。駄目でも言いたかっただけなの。あ、これも嘘ね。上手くいったらいいなって心底願ってた。でも私が勝手に願った事で、沙奈ちゃんには何の責任もないから。こればっかりは仕方ないよね。  失恋には慣れてるし、っていうか失恋しかしたことないし、場数を踏んでる分、めちゃくちゃ耐性あるから大丈夫。  仲良くしてても好きって伝えた途端、逃げられるってよくあるの。だからこうしてクリスマスに好きな人と過ごせただけでも、今年は全然マシ」  笑おうとして、それすら上手くできない。  反対に目尻からポロリと涙が落ちた。せめてさらりとカミングアウトして、何でもない事のように立ち去ろうとしていたのに、涙は容赦なく溢れて目から頬を伝う。 「やだ、なんかこれじゃ情緒不安定みたいよね。さっきから怒ったり泣いたり……おかしいな、本当はいつももうちょっと冷静なのよ? 自分でも可愛げがないって思うほど」  言いながらも涙が止まらない。虚勢をはることも叶わず、マリアは零れた涙を拭こうとした。  その時だった。  沙奈ちゃんが手を伸ばし、テーブルの上のマリアの拳を包み込んだ。 「こだな可愛い人、いねえ」  沙奈ちゃんはマリアが大好きな落ち着いた声でそう言った。
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