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……いま、なんて言った?
マリアは目を見開き、夢のように暖かいその手の温もりに震えた。
沙奈ちゃんは手を握ると同時に、テーブルの半ばまで身を乗り出していた。柔らかそうな唇まで二十センチもない。吐息のかかる距離の近さに息を呑む。
……ちょっと待って、これ……拒否られてない……方?
「藍野さま、勘違いしてねえか。私、自分の事さ話してたんだ。藍野さまが店に来てくれた初めの日から今日まで、気持ち誤魔化したり逃げたりしてきた。けど、ちゃんと伝えるべきだって」
「……嫌……じゃないの?」
「言ったべな、私、綺麗なものが好きで、友達と趣味も合わねくて、ずっと一人だったって」
「言ってた……けど……」
「私な、子供ん頃から綺麗な女の人見るとドキドキして、自分のことおかしいんじゃねえかって思ってたんだ。田舎じゃそだなこと誰にも言えね。苦しくて都会さ来たんだ」
私のラブリーエンジェルが……同類?
マリアは高速で瞬きをした。脳がフル回転する時の癖である。気合いで重ねたつけまつげがぱさぱさと風を送る。
そんな奇跡ってある?! まさかのクリスマスキャンペーン?!
麒麟神社にぶっ込んだ一万円のお賽銭効果?
でも、そーいや、こんなに可愛いのに男っ気ゼロって、他の店員も言ってた!!
男嫌いかもって!
うほー!! 神よ! まさかの有りですかー!
ああっ、でもまさか過ぎて信じ切れない!!
マリアは沙奈ちゃんに手を握られたまま硬直していた。
麒麟神社で激しく祈ってはみたものの、実際、願掛けせざるを得ないほど成就しがたい恋愛である。沙奈ちゃんのカミングアウトを素直に受け止めきれず、脳内のツッコミが止まらない。
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