いつでもとなり

127/176
前へ
/609ページ
次へ
 ……いま、なんて言った?  マリアは目を見開き、夢のように暖かいその手の温もりに震えた。  沙奈ちゃんは手を握ると同時に、テーブルの半ばまで身を乗り出していた。柔らかそうな唇まで二十センチもない。吐息のかかる距離の近さに息を呑む。  ……ちょっと待って、これ……拒否られてない……方?   「藍野さま、勘違いしてねえか。私、自分の事さ話してたんだ。藍野さまが店に来てくれた初めの日から今日まで、気持ち誤魔化したり逃げたりしてきた。けど、ちゃんと伝えるべきだって」 「……嫌……じゃないの?」 「言ったべな、私、綺麗なものが好きで、友達と趣味も合わねくて、ずっと一人だったって」 「言ってた……けど……」 「私な、子供ん頃から綺麗な女の人見るとドキドキして、自分のことおかしいんじゃねえかって思ってたんだ。田舎じゃそだなこと誰にも言えね。苦しくて都会さ来たんだ」  私のラブリーエンジェルが……同類? マリアは高速で瞬きをした。脳がフル回転する時の癖である。気合いで重ねたつけまつげがぱさぱさと風を送る。  そんな奇跡ってある?! まさかのクリスマスキャンペーン?!  麒麟神社にぶっ込んだ一万円のお賽銭効果?  でも、そーいや、こんなに可愛いのに男っ気ゼロって、他の店員も言ってた!!  男嫌いかもって!  うほー!! 神よ! まさかの有りですかー!  ああっ、でもまさか過ぎて信じ切れない!!  マリアは沙奈ちゃんに手を握られたまま硬直していた。  麒麟神社で激しく祈ってはみたものの、実際、願掛けせざるを得ないほど成就しがたい恋愛である。沙奈ちゃんのカミングアウトを素直に受け止めきれず、脳内のツッコミが止まらない。
/609ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加