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「色々言われても店辞めねかったのは、藍野さまがいつも次の予約を入れてくれてたからなんだ」
「私の……ため?」
「そだ」
感激のあまり新たな涙が沸いてきた。つるつると目の前が水に沈み、沙奈ちゃんの顔が歪む。
マリアは恋が成就する瞬間を知らない。
今までさんざん憧れて夢見て、一人ではしゃいでは寂しさで泣いた。マリアの恋はずっと一人ではじまり、一人で完結してきたからだ。
だが、沙奈ちゃんはずっとマリアの手を握っていてくれる。
どの恋愛でも否定されっぱなしだったマリアの全てを肯定するように、その華奢な手が優しく包みこんでいる。
そう思ったら、この瞬間にもマリアはまた沙奈ちゃんを好きになった。
涙の向こうの沙奈ちゃんは、水面に反射するまばゆい光を纏ったようにキラキラしている。まさにマリアにとって救いの天使そのものだった。
「あなたの瞳に星が見える……」
突然のポエム。違う、視覚に異常をきたした訳ではない。愛ゆえにマリアには実際そう見えている。平常心ではおよそ言えないドリーミーな言葉も沸いて出る、これぞ恋の脳内麻薬効果なのだ。
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