いつでもとなり

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「これは希望の星? それとも魔法? ごめんね、もう一度聞いてもいい? もしかして聞き間違いとか幻聴じゃなければ、私の事好きって言ってくれてる?」 「言ってるべな」 「その、恋の相手としてよ?」 「そう言ってるべ」 「具体的で申し訳ないけど、私、するよりされたい方よ!?」  もはややけっぱちで試練のハードル三連弾を次々と繰り出す。聞きながら逸る気持ちと不安でマリアの眉間には深い皺が寄った。  露骨な質問にも関わらず、沙奈ちゃんは柔らかく微笑んだ。やっぱり天使だ、とマリアの胸はきゅーんと痛む。 「せっかちだな、藍野さまは」 「だって! もうこんなに好きなのに、これ以上好きになってから駄目になったら辛いものっ」  マリアの乙女心炸裂な発言にも沙奈ちゃんは動じなかった。 「今、気持ち打ち明けたばっかりでねえか。こっから、ここの亀みてえにゆっくりお互いのこと分かっていったら良ぐねえか。分かればもっと好きが増えると思うんだ。したら駄目になったりしねえべよ」  ――――――のそのそのそのそ。  まるで出番ですかと言わんばかりに、看板亀のキャメちゃんが床を横切っていく。この効果的タイミング、何気なく亀カフェ店主からの粋な計らいである。ヒロたちを見送った後、オーナーは店の隅からそっとこの告白を見守っていたのだ。  マリアと沙奈ちゃんはマイペースで通り過ぎるキャメちゃんを一緒に眺めた。  そののんびりした動きに二人は自然と笑顔になる。マリアは慣れない幸福感に戸惑いながら、噛みしめるように言った。 「……私、上手くいった時、どうすればいいのかはシュミレーションしてこなかったわ。でも何もしなくても幸せなのね」 「んだ」  沙奈ちゃんの力強い同意に、マリアが泣き笑いの表情になる。  そして。  おめでとう……  でも亀を撫でるともっと幸せな気分になるのよ……  オーナーは独自のアドバイスを付け加えつつ、このできたてほやほやのカップルに祝福のエールを送っていた。
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