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さて。
見事、想いが通じてマリアがハレルヤ!の快哉を上げている頃、親友ハナは苦しみの渦中にあった。
「あんなヒロ、僕、見っかってしもてな、人がでやーって来て駅に逃げたんや。でな、今は駅の中を通り過ぎて、反対口のバス乗り場におるんやけど、まだ諦めてへん人が探し回っててな、植え込みでしゃがんでんねん」
電話越しのハナの涙声にヒロも狼狽える。ハナがどんなに群衆を恐れているか、ずっと傍らにいたヒロは痛いほどわかっているのだ。
ギンちゃんの運転する車は渋滞を抜け、ハナに向かってまっしぐらに進んでいた。ヒロはその中で落ち着きなく貧乏ゆすりをしまくっている。その激しさゆえに車内は常にナマズ号のような揺れに襲われていた。
「遅くなってほんまごめん!すぐそっち行く、もうちょっと辛抱な」
「うん、早う来て……」
縋るような声音にヒロは居てもたってもいられない。
今すぐ抱きしめたい!そんな思いがさらなる貧乏ゆすりに繋がり、車はガタガタ揺れた。運転しているギンちゃんすら酔いそうになり、見かねて助手席のペン太が、後部座席を振り返る。
「なあ。ハナちゃん、あれだけ仕事してんのに何が駄目なんや」
「素のままがアカンのやわ。着ぐるみか役に入ってれば別人モードになるんやけどな。今日はイブでデートやろ、思いっきりプライベートやから俺に恋する華やぎを隠しきれんのや。ただでさえ可愛ええのに愛苦しさが際立ってしまったんや……」
聞かれもしないことまで言って、ヒロは呻いた。
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