いつでもとなり

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 電話は繋がったままだったから、携帯を耳に押し付けていると周囲の喧騒が聞こえてきた。いくらハナが小柄とはいえ、大の大人が隠れるのに植え込みでは限界がある。  心細げにハナが呟く。 「何台かバス来た……これ、うまくしたら紛れて逃げられるやろか」 「ええやん! やってみいやハナ」  駅の停留所であるから、かなりの乗降者数だ。  ハナが息がひそめて様子をみていると、止まったバスから大量の人が降りてきた。通り過ぎる足音に怯えつつ、隠れている植え込みの隙間から、そっと顔を出す。  しかしハナは良くも悪くも引きの強い運勢の持ち主なのだ。  その途端、前方から親に手をひかれててくてく歩いていた子供とバッチリ目があった。しゃがんでいたせいでちょうど子供の目線だったのである。 「あー、ハトのおにーちゃん!!」 「や、あの、だめっ、シーッ!」  しかし子供の高い声は絶望的に良く響き渡り、周囲の空気は一変した。視線が集中する。ハナはもはや虚ろだった。 「見っかった……も、終わりや……」 ヒロはその声に蒼白となり、電話越しに叫んだ。 「落ち着くんやハナ! ええか、そこに集まってるんは人のようで人でない。そう、ジャガイモとニンジンと思うたらええ」 「無理や、動いとる……めっちゃうごめいとる」 「気のせいや!」 そら強引すぎるわ、とギンちゃんとペン太まで同調した。  電話の向こうでは早くもハナちゃんコールが巻き起こっている。おそらくハナは一歩も動けずにその場で硬直しているに違いない。
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