いつでもとなり

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 ハナはさらに拳をつきあげて、人々を扇動した。  その拳が輝く手羽に見えてくるのは、演技によってハト化が完全なものになった証であろう。なぜ英語が出てきたかは謎だ。巨匠がハワイから電波を送っていたのかもしれない。 「「ぐるっぽー!!」」  野次馬の一団とハナの雄叫びが美しく重なった。もはやバスの停留所でハトを叫ぶ人々の心は一つだった。  しかし、ハナの暴走はこれしきでは止まらない。ハナは首に巻いていたマフラーをしゅるっと外して、ぶんぶん振り回した。 「アーユーレディ?」 ノリのまま『イエーイ!』と返事が返ってくる。なんの用意が出来たかも知らずに。  ハナはすかさず携帯の音量を上げ、練習用に入れていたハトダンスの動画を再生した。お馴染みの曲のイントロが流れ出す。  ズムズムズムズム……その聞き慣れたリズムにハナは体を揺らして叫んだ。 「レッツダンス!! トゥギャザ!!」  え、俺たちも踊るの? 当然の疑問だが、ハナは怯む隙を与えない。  小さな子供はすでに踊る気満々である。ズムズムに合わせて手羽をバサバサ。振りは単純なので恐る恐る人々も手を動かし始めた。  ハナの目がきらりと光る。まだポッポ―、これからぐるっぽなのよ……、ハナは始まりの第一声を上げた。 「ぽぅ!!」  ぐるぐるぐるぐるぐるっぽー!  両方の手羽を身体の前でぐるぐるさせる。  ハナは太陽のように微笑んでいた。ヒロを虜にし、オイリー先輩が目を細めて愛でるその笑顔。鋼を骨抜きにしたキラキラの瞳。  この可愛さを間近で直視したら抵抗などできる訳がない。  ハナを取り巻いた人々は、全力で踊り出した。  
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