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ハナー!どこやー!
ヒロ、心の叫びである。
ヒロは車から降りると同時に全力で駆け出していた。本当はハナの名を叫びながら植え込みに突進したいところだったが、目立つわけにはいかない。
喉元で叫びたい声をぐっと抑え、ヒロはハナを探した。
しかし、迷うまでもなかった。駅前は黒山の人だかりで、しかも地鳴りがするほど人々はぐるっぽーだったのだ。
「踊っとる……」
ヒロは我が目を疑った。
状況ゆえにハナを煽りはしたが、予想したのはせいぜい「ぽっぽ」と鳴いて一回転するぐらいのものである。
しかし、目の当たりにした現実ははるかに予想を超えていた。
生まれたての雛のように震えていたハナが、大勢を率いて一糸乱れぬ動きでハトダンスをしている。倍速バージョン効果で、皆、ダンスに没頭するあまり、相方のヒロが間近にいるのに誰一人として気付かない。それほどの集中力で人々はぐるぐるしちゃってるのである。
「ぽぅ!!」
「ぽっぽー!!」
もはや合いの手のタイミングも完璧である。ヒロの涙腺がぶわっと崩壊した。
「ハナ……まるでジャンヌなんとかや……ええもん見さしてもろた……」
はらはらと涙がこぼれる。ヒロの脳内イメージでは民を率いて勝利をおさめたジャンヌ・ダルクの勇姿が浮かんでいた。フランス人でも戦闘中でもないが、ハナにとってこの快挙はまさに革命である。
ずっと人が怖くて泣いていたハナが。
舞台に立てずに真っ青になって立ち竦んでいたハナが。
『ぽー!!』
いま無双状態で勝鬨の雄叫びを上げている。
踊り狂うハナを前にしてヒロは男泣きに泣いた。これを奇跡と言わずして何と呼ぼう。これまでの苦悩を一気に吹き飛ばすキレキレの動きに涙が止まらない。しかし感傷に飲みこまれて棒立ちのヒロを、遅れて駆けつけたペン太が後ろからどついた。
「何ぼさっとしとるんや、はよ助けな!」
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