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ちらちらと小降りだった粉雪は本降りになっていた。
ちぎった綿のように大きな白い雪が、無限に空から降ってくる。その雪をかきわけるようにひたすら走る。自分の息が苦しくて、雑踏の喧騒もどこか遠い。
学生時代、いつもヒロの後ろにくっついていたハナは、既視感を覚える。学ランの頃から思い立ったらすぐ走りだすヒロを見守るふりをして、その背中に見惚れていた。高い背も、前だけ見てまっしぐらの瞳も、自分にはないものばかりだったから。
あの頃からもう、僕、好きやったもん……
案外長いヒロへの気持ちを、ハナは再確認する。
きっとその頃のヒロは、お笑いのことしか頭になくてハナの気持ちなんて気付いていなかっただろう。
だからこの想いが叶うなんてずっと無理だと思っていたし、そう思っていた時間が長すぎて、すぐ片想いの頃に気持ちが戻る。
ハナ、行こ。
さっき群衆から救い出してくれたヒロは王子様みたいだった。パニックからの鳩化、終わりなきダンス。その悪夢から脱出し、固く手を繋いで走っていることに気が付いてから、ハナはずっとドキドキしている。
この高鳴りは運動による息切れではなく、ときめき由来の動悸である。想像したデートからかなりズレてしまったが、それでも嬉しい。
「もう逃げ切ったようやな」
踏切を渡り、駅の反対側に抜けると、ヒロは様子を伺いながら走るのをやめた。何気なく周囲に歩調を合わせ、二人は横並びになる。うつむいたままヒロは囁き声で言った。
「遅くなってごめんな。大丈夫か、ハナ。行けそうか?」
「うん、行く」
本来ならタクシーでも拾って家に帰るべきだが、二人は心待ちにしていた理想のクリスマスを諦めきれなかった。
家でのクリパにローストチキンとケーキは必須である。このまま直帰すれば冷凍うどんしかない。
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