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一人でやっている小さな洋菓子店である。大量のクリスマスケーキを作るだけで、それ以上の余力はないのだろう。申し訳なさそうに頭を下げられ、ヒロは恐縮した。
「いえ、ええんです、こちらこそすんません」
いや、全く良くはない。背後のハナが燃え尽きた灰のようになっている。よほど哀れに思えたのか、買ってもいないのに店主は飴をくれた。
足を引きずるように店を出る。
「ハナ、ごめんな。予約しとけばよかった」
「ええよ……そんなん僕かて気付かんかった」
そうは言っても、がっくり肩を落としたハナを到底このままにはできない。ヒロはきょろきょろと目まぐるしく辺りを見回し、ヒマ過ぎて店主が虚空を眺めている和菓子店を見つけた。
「ハナ! あの和菓子屋はどうや! 知っとる?」
「あそこ……? 確かあんこは十勝産の小豆、餅は杵打ち、創業40年余の名店……」
「よし、それでいこ!」
「え」
ヒロはばびゅんと店に飛び込んだ。さすがにクリスマスで和菓子の売れ行きはサッパリらしく、品数はしっかり揃っている。買うものがあるだけで安心したヒロは、ここでも元気いっぱいに注文した。
「甘いモン、なんでも!」
「待って!」「お客さん、さすがに雑だよ!」
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