いつでもとなり

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 弾む足取りで次に狙うはチキンである。  ハナも心中、密かにリベンジを狙う。朝からロクなものを食べていない二人はとっくに空腹だった。香ばしい肉の香りにヒロが鼻をうごめかす。 「鳥、丸焼きにしよか、それとも腿焼きか。あ、ええ匂いしてきた」 「そこや、熊野精肉店。あそこのお肉は間違いあらへん」  熊野精肉店は下町銀座の終盤にある。いわばこの界隈のオオトリとも言うべき人気店である。今日は相応の集客を見込んだのか、店の前に即席の販売コーナーを設置していた。美味しいものを愛す旅好きの店主、菜名ちゃん印の惣菜はビールに合うと評判である。  販売を担う店主は、店のキャラクターである熊の着ぐるみ着用で気合が入っている。(またしても着ぐるみと思われるでしょうが実際にそうなのだ!) 『焼き立て! 肉汁あふれるジャンボ鶏もも焼き』ののぼりを見ただけで、ヒロとハナのお腹がぐぅと鳴った。  しかし、一度ある事は二度ある。  店頭販売は女子高校生で賑わっていた。これから友人同志でクリスマスらしく、楽し気な話し声が聞こえてくる。 「お腹空いた」 「なんでよ清香! あんたさっき寄り道して菓子パン食べてたじゃない」 「いつものことじゃん、環菜。あんなの清香にとってただの味見だよ。ねえ、それより悠希どれにする? みんな美味しそうだけど残ってる量、半端だよね」 「そうだねえ。全部まとめてもらおうか。男子組も合流するし各自好きなの食べたらいいんじゃない? 璃子、予算大丈夫?」 「なんとか。二十円あまるぐらい」 「じゃあ全部で決定だ」  なぜか拍手が沸き上がり、食欲の塊とおぼしき女子高校生たちは大きな熊野印の袋を抱えて帰っていった。
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