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「だってハナ、大勢の前で着ぐるみなしでトークして歌って踊ったんやで。何年ぶりやろう。俺、さっきのハナ、思い出すだけで、涙出そうや。今も歩きながら何回も思い出してた。一人で立派に舞台務めたんやぞ。嬉しくてたまらん」
ヘイ!とかセイ!がトークとして成立するかは疑問であるが、ヒロは邪気のない顔で笑った。
「ハナが元気になって、二人仲良く一緒にいられて、今年はええこと尽くめや」
ハナは喜び過ぎているヒロに慌てて説明した。
「あの……でもな、僕、変なテンションやったから自分でも何やったかあんま覚えてないねん。たぶん完全に治ったわけでもないし、ぬか喜びかもしれん」
「ええよ。そんなに簡単やないことぐらいわかっとる。そんなに欲張る気はないんや。今日はただただ、この嬉しい気持ち、味わいたいんや」
「そっか」
ハナは小さく頷いた。喜びに輝いたヒロの顔がまぶしかった。
このささやかな進歩をこれほど喜んでくれる人が他にいるだろうか。
できないことを、こんなにゆっくり見守ってくれる人がいるだろうか。
そう思ったら、冷えた躰がお湯につかった様にじわんとあたたかくなった。
「ありがとう、ヒロ」
「俺のほうこそ、ありがとう」
ヒロは驚くぐらい真面目にそう言って、ハナを引き寄せた。一瞬のうちに、ハナはヒロの腕の中にいた。背中に回った腕がぎゅっと抱きしめる。
「一緒に東京に来てくれて、俺の相方になってくれて、つまらん芸人言われても付いてきてくれて、ほんまにありがとう。俺の好きな人がハナでよかった」
ハナは瞬きも忘れてその言葉を聞いた。
寒さで赤くなったヒロの耳たぶ越しに雪を見る。
その美しい白い結晶が、花吹雪のように二人に祝福をくれている。ハナは涙をこらえてヒロにしがみついた。
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