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抱擁ののち、もはや急ぐこともなく、二人は手をつないで家に帰った。
ヒロは少し照れたのか、どうでもいいことをペラペラと話し続け、ハナがふんふんと聞き役に回る。
だが、相槌を打ちながらも家が近づくにつれハナの緊張は次第に高まっていた。
色々ありすぎて薄れつつあるが、部屋にはハトツリーがある。
その渾身の力作は、紆余曲折の果ての産物だった。ハナとしては過程の頑張りゆえに愛着が先行しているが、ツリーとしての完成度は甚だ不安の残る代物である。
いよいよ玄関の前まできて、ハナの不安はピークに達した。
しかし空腹と冷えで「ごはんごはんおふろおふろ」と単語をさえずるマシーンと化したヒロは、ハナのためらいなど一切気にせずダダーンとドアをあける。
その途端だった。
「うあああああああ!!!」
ヒロは叫ぶなりリビングのハトツリーに突進した。
このサプライズのために、ハナはツリーを自分の部屋からえっちらおっちら移動していた。だからツリーは玄関に入ると即座に目に入る。
暗い部屋に電飾が規則正しく点滅していた。
背丈程もある大きな樅の木に大量にぶらさがるハトのサブレ。星よりも枝よりも目立つハト。作っている時は夢中だったが、改めて目にするとサブレの存在感が大き過ぎる。鳩ですが何か?と言わんばかりの主張ぶりだ。
やっぱり変やろこれ……だが、ハナが弱気になる間もなかった。
「ハトや! ハトちゃんや!!」
ヒロは脱いだ靴を玄関にすっ飛ばしながら駆け上がった。学生時代、大好きだった購買の卵サンドに突進していた時よりも格段に勢いがある。
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