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ヒロの目線はリビングの隅に落ちている白い物体に吸い寄せられていた。
ちょうどティッシュを丸めたサイズだ。
ツリーを移動するときにゴミでも引きずってきたのだろうか。ハナは目を凝らす。よく見ると白くて丸っこい。
餅? ちゃう、あのひしゃげ方はまるで食いちぎられた大福のような……
ハナはハッとした。それは、作って即座に黒歴史と化した自作のハトのオーナメントだった。がっちり縫ったせいで唯一ハトの奇襲を免れが、間違っても人に見せられるような代物ではない。勘のいいマリアですら正解に辿りつけずに絶句した出来栄えなのだ。
しかしヒロはそんなハナの焦りには無頓着に近づいていく。
「これって……」
「待って! それは違うねん、失敗作やねん」
ハナは慌てて駆け寄り、隠そうとしたが圧倒的にヒロの方が手足が長い。サッと拾い上げると手の中の不格好なそれをまじまじと見つめた。見れば見るほど悲惨な出来である。
いっそ齧りかけの豆大福だと言い切った方が良いだろうか。迷いつつも恥ずかしさで身がすくむ。
「これハナが縫ったん?」
感動。
見上げると、ヒロの顔にはこれまたわかりやすくそう書いてあった。
「……うん」
「このハトちゃん、もしかして俺にくれるつもりで?」
ヒロは早くも目を潤ませてハナに問いかけた。ハナは驚愕した。
「わかるんッ?!」
これがハトに見えるとは今日一の奇跡である。しかもヒロは迷わずハトと言った。製作者たるハナでさえ大福と見紛うクオリティなのにだ。
ハナは驚き、歓喜のあまりハトであることを全力で肯定した。
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