いつでもとなり

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「だって俺ら芸人やぞ? それに紅白に出る人ってとっくに発表になってるやん」  ヒロの疑問は最もである。紅白は年末の風物詩であり、その出場者は師走前に大々的に報道されている。 「もちろん、歌手としてのエントリーじゃなくて、幕間のネタ披露なんだ。ほら、今年は白組の司会がオイリーでしょ。ファット先輩とラード先輩は企画から絡んで、せっかくだから歌の合間はお笑いで盛り上げようってコンセプトで」  佐崎が息せきって説明していると、ようやく追いついたラード先輩が続きを引き受けた。 「始めはなあ、歌の間やから、ちゃんとした歌手さんと流れがだぶらんように、コントや漫談の路線で考えてたんや。けどな、スタッフさんとも何度も話し合ったんやけど、どうもインパクトが足らん。やっぱり今一番、勢いがあって老若男女に受けるんはコレしかないと思って土壇場で押し切ったんや」 「ハトダンス、みんなで踊ったら楽しいでー」  ファット先輩が笑顔で言葉を挟んだ。こんな時だが大先輩の登場に、ハナとヒロは正座になる。恩人への礼儀は忘れない二人である。 「どうや。出番言うても、ちょっとぐるっぽーするぐらいやけど、サプライズゲストとして協力してくれんか」 「先生!! ありがとうございます!!」  舞い上がった佐崎は武士のように平服した。そして相変わらずピンときていない二人の後頭部をおさえつける。 「お礼言って! こんな凄い棚ボタもう絶対ないから!」  色々失礼な佐崎である。
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