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しかし佐崎とて大事な休日を返上するのは同じである。それこそ愛する妻と可愛い子供とともに、佐崎がどれほどこの日を楽しみにしていたかは、ハナもヒロもわかっている。
「ファット先輩、ラード先輩、ありがとうございます。俺らせいいっぱいハトになってみせます」
ヒロは頭を下げた。ハナもそれに倣う。その言葉に安心したオイリーの二人は優しく微笑んだ。
「よう言った! ほな、先に行ってるわ。ポッチャリ―がな、クリスマスやから賄い飯張り切っててな、ローストチキン焼いてるんやわ。それでなくとも今日は差し入れが多くて、ケーキなんぞ食べきれるかどうか。スタッフさんもお疲れやし、みんなで食べながら打ち合わせしよ」
「チキン……!」「ケーキ……!」
ヒロとハナは思わず上ずった声を出した。
ここでよもやの焼き立てチキン。ありあまるほどのケーキ。紅白と聞いたときよりも露骨に目が輝く。
慌ただしく出て行ったオイリーを見送って、ヒロは佐崎に振り返った。
「じゃ、俺らも行こ。すぐ準備するから佐崎さん車で待っといて」
佐崎は急に照れくさそうに頭を掻いた。
「あのね今日は社用車じゃなくて、マイカーなんだ。連絡受けたの、乾杯した後だったからさ。運転するの嫁さんで、子供も乗ってるけど気にしないで」
それを聞き、ヒロとハナは好奇心ではちきれんばかりになった。
「わあ、そこにおるの噂の鬼嫁ちゃん? 木刀振り回すぽんちゃん見たい!」
「総くんとよーくんもおるの? 赤ちゃん抱っこしたい!」
佐崎がヒロの鬼嫁発言に蒼白になっている隙に、二人は早くも玄関にすっとんでいき、和気あいあいと挨拶合戦がはじまっていた。
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