いつでもとなり

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 これまでずっとお茶の間からハナヒロを応援してきたぽんちゃんは、実物を前に喜びを隠さない。興奮全開の嫁の声が響いてくる。 「ヒロくん握手してもろてええ? うわ、背ぇ高いんやねえ、かっこええねえ。ハナちゃんも握手ええ? むっちゃかわええねえ、ほんま最高やわー!」  嫁のあんな明るく優しい声を聞いたことがあるだろうか。佐崎はややショックを受ける。 「抱っこ?! 遠慮せんでいくらでも抱っこしてや! よかったなあ、総くん、よーくんも、ハナヒロのお兄ちゃんやぞー」  ヒロに抱っこされる総くん、ハナに抱っこされるよーくん。  双子の赤ん坊は泣き虫のはずだったが、二人の腕のなかでにっこにこである。最近は佐崎がいくら抱っこしても泣き止まない(どころかエビぞりになって大泣き)なのにである。  ぽんちゃんは追いついた佐崎に目もくれず、スマホで写真を撮りまくっている。 「あ、アンタ」  ようやく気付いたのは角度を変えてシャッターを切った拍子に背後の佐崎の足を踏んだからである。 「ぽんちゃん良かったね。いつもハトダンス踊ってるぐらい好きだもんね……」 「ちょおっ!! バラすのやめてやー!!」  ぽんちゃんは乙女のように照れて、バシッと佐崎の背中を叩いた。しかし剣道で鍛え抜いたその剛腕、脳髄まで震えるほどの破壊力である。  目から星が出て、これぞ幻のクリスマスツリーか、と悶絶していると、ぽんちゃんは恥じらいながら佐崎にスマホを渡した。 「今から一緒に踊るから撮ってや」 「え、あの、急いでるんだけ……」 「だったら早うやらんかい!」  勝てるわけない。勝てるわけなかったよ……  佐崎は全てを受け入れ、玄関先でぐるぐるぐるっぽーを舞い始める嫁とハナヒロを画面に収めたのであった。
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