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『このカフェじゃ駄目ですか? そちらのお嬢さん、お仕事をお探しだったら、うちなんて如何でしょうか?』
『どういうことッ? 詳しく!!』
振り返ったマリアの目力が凄い。ようやくつかんだこの恋を絶対に終わらせたくないという気迫が漲っている。
『さっきまでうちで働いていた男の子、ギンちゃんって言うんですけど、彼とは一番はじめに約束があって、相方さんが迎えにきてくれるまでの契約なんです。いつ来るかもわからないし、駄目になるかもしれないけど、もしペン太さんが本気でコンビやろうって覚悟を決めてくれたら、その時はそれだけに全力で打ち込みたいからって』
『へー……』
『だからさっきから困ったなーって思ってたんです。さすがに私一人ではちょっと大変だし、年末からバイトを募集してもそうは見つからない。そちらのお嬢さん、亀好きみたいだし……どうでしょう?』
この申し出に沙奈ちゃんは即座に飛びついた。むしろマリアの方が躊躇った。
『いいの? 沙奈ちゃんはきれいなものが好きでそれを仕事にしたいんでしょ』
ネイリストからカフェの店員では繋がりというものがない。自分のせいでやりたい事から違う方向に流れて欲しくなかった。
『きれいですよ! 亀は可愛いです。動きも優美だし!』
オーナーの主張を無視して二人は見つめ合った。そして沙奈ちゃんは言ったのである。
『いいんだ。どの仕事をするにしたってまずは苦手な接客をどうにかせねばなんね。だったら、ここはいい勉強になるんじゃねえかと思う。だからしばらくの間、ネイルは藍野さまの専属にしてくれねえか。他の人のはしねえ』
『沙奈ちゃん……』
こういわれて異議のある訳がない。
マリアは連日このカフェに通う決意をし、オーナーは新たなる常連が増えることを確信して微笑んだのだった
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