410人が本棚に入れています
本棚に追加
/609ページ
ハナが頷いた。
「うん。前はな、僕、それ考えるだけで怖かった。けど今は怖いだけじゃのうて、ヒロと一緒に、笑ってるお客さん見たいって思い始めてる」
「ほんま? そう思うてくれるか?」
「だって僕のいるとこはヒロの隣りやもん」
ハナはそう言ってにっこり笑った。
もともといったん全く駄目になったものがここまできたのだ。今のハナは着ぐるみさえ着ていれば、そして鳩スイッチさえ入れば、大舞台でもどうにかなる。だから紅白の出番を前にして過呼吸の兆しもない。
これはかなりの進歩だ。
アクシデントだったとはいえ、クリスマスのバスの停留所での出来事が、ハナに自信を与えていた。その時は恐怖だったし、パニックにもなりかけたが一応は出来た。ヒロが感激した通り、一人でちゃんとやれたのだ。
ハナは後日、混乱していた記憶を何度も反芻してみた。そして冷静になって思い出したら気付いたのだ。
お化けのように怖がっていた群衆は、夢中になってハナに声援を送り、笑ってくれていた。その笑顔はピカピカに輝いていた。
瞬間、呪いが解けたような気がした。
それからほどなくして、ハナは不思議なぐらい気持ちが楽になっている事に気が付いた。紅白のリハーサルは着ぐるみなしで踊ったが、複数のスタッフがいても足は震えなかった。
これだったら。もうちょっと試してみたら。
そう思えるようになった自分がまた嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!