1月

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1月

「そんじゃまず1月や」 「おおー、初日の出、見に行ったねえ。今年は運頼みだから、縁起のええことしとかなって、佐崎さんに紅白のあと、海まで連れてかれて……」 e26aef0b-372d-42bc-9bef-a7dbab31568c ヒロは虚空を眺めた。海馬にアクセスした結果、封印していた記憶が蘇ってくる。途端に微妙な表情になった。 「そうや……そんでその後、初詣行ったら、藍野さんと鉢合わせしたんやった」 「そうそう、あれは麒麟神社やったね……」  麒麟神社はハナがヒロへの恋心を叶えてもらった神社である。  恋愛成就で評判の神社は小さいながらも大人気で、押すな押すなの賑わいだった。初日の出の後、直帰しようとした佐崎に、ぽんちゃんと愛のある結婚生活が送りたいなら行くべきだと力説し、そのまま連れて行ってもらったのだ。  ヒロとハナはマスクとメガネと帽子という完全武装で身バレを防ぎ、俯きながら参拝の列に並んだ。時々こっそり手をつないだりして、くくくと微笑み合う。  ここまでは順調だったのである。  しかし、お賽銭を入れようとしたところ、ハトダンスで腕を回し続けて筋力が増していたのか、投げた小銭があらぬ方向にすっぽぬけた。そして絵馬を書いていた参拝客の後頭部を直撃したのだ。  それが藍野マリアだった。なんという偶然。この日のために美しく高々と結い上げた髪に小銭がバコッと突き刺さり、マリアは鬼の形相で振り返った。 「ちょっと! こんな豪速で五円玉を飛ばしたのはどこのトンマなの!」 「す、すんません、だってそんなデカい頭してるから表面積が……」 「表面積? 屁理屈言ってんじゃないわよッ……って、ヒロ君?! やだ、ハナちゃんまで!」 いつもは思慮深いマリアであるが、まさかの鉢合わせで思わず名前を口走ってしまった。その瞬間から神社はもう大騒ぎである。佐崎は青ざめた。  「うそ、ハナヒロ?」「マリアちゃんも?」境内はパニックになりかけ、息も絶え絶えに逃げ帰ったのだ。  しかしこれは慌ただしい一年を予兆する出来事だったのである。
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